研究概要 |
乳癌のホルモン療法抵抗性獲得は、臨床的にも重要な研究課題である。我々は、ホルモン療法抵抗性獲得のメカニズム解明とその克服に関し継続的な研究を行っている。本年度は、1.増殖因子シグナル伝達亢進がホルモン療法抵抗性の一因になっていることを臨床例で検証、2.増殖因子受容体HER1のシグナル伝達阻害剤gefitinib(G)が抗エストロゲン剤fulvestrant(F)の抗腫瘍効果を増強することを示した。さらに、「低酸素微小環境による乳癌細胞の悪性形質進展」を検証するため、3.長期間低酸素環境による乳癌悪性形質関連遺伝子発現の変化を系統的に検討した。 1、再発後ホルモン療法を受け、治療効果の判明している症例の原発腫瘍を免疫組織化学的に検討し、原発腫瘍がHER1を強発現している症例では、ホルモン療法抵抗性が早く出現し、その後の生存期間も短いことが示された。 2.G、Fが細胞増殖、細胞周期、アポトーシス、cyclin-dependent kinase inhibitors(p21,p27)、アポトーシス関連蛋白(Bcl-2,Bax)発現に与える影響を検討した。estrogen receptor(ER)陽性細胞株では、エストロゲン存在下でGがFの抗腫瘍効果を増強した。そのメカニズムとして、p21の蛋白発現を両剤が相加的に増加させ、G1-S移行阻害を引き起すことが示された。ER陰性でHER1やHER2発現の亢進した細胞株では、Bcl-2の発現低下に伴うアポトーシス促進が起こることが示された。 3.長期低酸素環境によりHER1の発現亢進が多くの乳癌細胞株で認められた。その他にvascular endothelial growth factor family, hypoxia-inducible factor-1αなどの発現増加も観察された。
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