研究概要 |
今回の研究成果を以下にまとめる。1)再発乳癌症例の乳癌組織標本を対象に、HER1、HER2、p53変異、Ki-67標識率を検討し、ホルモン療法の治療効果との相関を解析した。HER1発現の亢進している乳癌症例では、早期にホルモン療法抵抗性を獲得し、予後が悪いことが判明した。2)ヒト乳癌細胞株を用い、HER1のシグナル伝達阻害剤gefitinib(G)と抗エストロゲン剤fulvestrant(F)の併用効果を検討した。ER陽性細胞株では、エストロゲン存在下でGがFの抗腫瘍効果を増強した。そのメカニズムとして、p21の蛋白発現を両剤が相加的に増加させ、G1-S移行阻害を引き起すことが示された。ER陰性でHER1、HER2発現の亢進した細胞株では、Bc1-2の発現低下に伴うアポトーシス促進が起こることが示された。3)低酸素選択的細胞毒tirapazamine, TX-402が、ヒト乳癌ヌードマウス移植モデルにおいて、ERの発現低下を阻止することが判明した。4)長期低酸素環境による乳癌悪性形質関連遺伝子発現の変化を検討したところ、HER1の発現亢進が多くの乳癌細胞株で認められた。その他にVEGF family, HIF-1αなどの発現増加も観察された。以上の研究結果から、HER1の発現亢進が、乳癌のホルモン療法抵抗性獲得に強く関わっていることが示された。さらに、低酸素選択的細胞毒や増殖因子シグナル伝達阻害剤の投与は、乳癌のホルモン療法抵抗性獲得の遅延やその克服に役立つことが示唆された。
|