研究概要 |
(背景)EBAG9は、当初、エストロゲンの一次応答遺伝子として単離されたものである(Watanabe T, et al.1998)。その後、EBAG9は、全く別の経路で発見された癌関連抗原RCAS1と同一遣伝子であることが報告され(Nakashima M, et al.1999)、RCAS1がTリンパ球やNK cellをアポトーシスに導く作用を持つことが想定されたことから、癌の進展、転移に関わる因子として注目を集めるようになった。 (目的)本研究では、非癌肝組織および肝細胞癌(HCC)におけるEBAG9の発現を検討し、HCC進展におけるEBAG9発現の位置づけを定めることを目的とした。 (方法)東京大学医学部附属病院肝胆膵外科で切除を行ったHCC143症例を対象として、HCCにおけるEBAG9の発現を免疫染色およびWestern blottingにて検討した。また同じ標本を使用して、Ki-67抗体による免疫染色も行い、増殖能を検討した。またその発現の状況と、臨床病理学的因子、患者の無再発予後との相関を検討した。 (結果)EBAG9の発現は非癌肝細胞にも弱く認められたが、癌組織の84例(58%)に発現の増強が認められた。発現の増強は、Western blottingでも確認された。臨床病理学的因子との相関の検討から、癌組織でのEBAG9発現増強は、腫瘍の脱分化、および増殖能の獲得(Ki-67 labeling indexを用いた評価)と有意に相関していることが示された。一方、腫瘍の脈管侵襲や肝内転移、さらには患者の無再発生存期間とEBAG9の発現状況との間には相関は認められず、従って、EBAG9の発現増強は腫瘍の転移能獲得とは直接は相関していないことが示唆された。 すなわち、HCC進展の多段階プロセスにおいて、EBAG9発現の増強は中期のイベントであると考えられた。
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