【研究目的】遺伝子診断を応用して大腸癌肝転移の肝実質方向、またグリソン鞘方向への進展について検討した。【研究方法】1996年から2000年の期間に切除した大腸癌肝転移58例を対象とした。新鮮標本の病巣最大割面で、転移巣と非癌部肝組織から約5x3mm角のサンプルを採取し、DNAを抽出後、K-rasおよびP53遺伝子の変異を検討した。K-ras変異はMASA法(mutant allele specific amplificatioh)を用いてcodon 12および13での変異を検索した。p53遺伝子についてはエクソン5〜8についてPCR-SSCP(Single Strand Comformation Polymorphysm)でスクリーニングし、シークエンス法によって変異を同定した。同じ割面で組織学的なmicrometastasesについても検索した。肝転移巣の遺伝子変異はK-rasが15例(24.2%)、P53が31例(50%)で認められ、どちらかに変異の見られた症例は39例(62.9%)であった。これ以後の遺伝子検索はこの39例でのみ行った。【結果】非癌部肝実質サンプルの検討では、変異がみられ遺伝子学的なmicrometastasisの存在が疑われたのは2例のみで、その部位は腫瘍境界から2mmと4mmで、比較的近傍に限られていることがわかった。グリソン鞘組織サンプルの採取部位は、腫瘍境界から2〜25mmに分布していた。変異がみられたのは5mmの部位の3例で、1例は肉眼的な門脈腫瘍栓のある特殊例であった。組織学的なMicrometastasesは62例中15例24.2%でみられた。部位別の分布はほとんどが2mm以内、最大で5mmの範囲にとどまっていた。遺伝子学的なmicrometastasesと一致したのは2例であった。肝の切除断端での再発は疑い例を含めて4例あったが、今回検出されたmicrometastasesと関連すると考えられたものはなかった。【結論】大腸癌肝転移切除において、肝実質方向およびGlisson鞘方向の断端再発を完全に防止するためには5mm以上のSurgical Marginが推奨されるが、95%以上の症例では2mm程度のMarginでも十分であると考えられた。ただし、Glisson鞘方向の進展はやや広い傾向があり注意を要すると考えられた。【研究成果の意義と今後の発展性】大腸癌肝転移切除における実用的なSurgical marginが明らかになったので術式への応用が期待される。さらに、肺転移の危険の予測のための、肝静脈血中の遺伝子異常の検討も計画している。
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