研究概要 |
十二指腸液逆流が食道、胃さらに残胃などの前腸に発癌を引き起こすことが示唆されているが、その過程にcyclooxygenase 2(COX2)の関与が指摘されている。そこで、ラットを用いて十二指腸液を胃内へ逆流させる胃発癌モデルを作成して、胃の粘膜の変化、胃粘膜におけるCOX2の発現を調べるとともに、選択的COX2阻害剤による発癌抑制効果を観察した。 7週齢のF334雄性ラットを用いて、エーテル麻酔下に十二指腸胃逆流モデルを作成した。すなわち、空腸を起始部から約1cmの部位で結紮切断し、肛門側空腸端を腺胃の大弯側に吻合した。今回、COX2阻害剤として、meloxicam(日本ベーリンガーインゲルハイム社)を使用し、通常の飼料に混餌投与した。なお発癌剤はいっさい投与しなかった。実験群は以下の3群を設定した。 I、手術単独群 術後meloxicamは投与せず、通常の飼料を術後50週目まで投与する。 II、Meloxicam投与群 術後2週目よりmeloxicamを2.0mg/kgの濃度で開始し、術後50週目まで投与する。 III、非手術群 手術を行わずにmeloxicamを2.0mg/kgの濃度で開始し、48週目まで投与する。 手術後20,30,40,50,60週目にラットをそれぞれ、I群は10,15,13,16,21頭、II群は10,20,13,14,19頭を屠殺して、病理組織学的検討を行った。前癌病変とされるgastritis cystica profunda(GCP)の発生率は20,30,40,50,60週目の順に、I群が60%,80%,92%,100%,100%、II群が30%,45%,38%,36%,32%と30週目以降II群の方が有意に発生率は低かった。また腺腫の発生率はI群の0%,0%,23%,50%,52%に比較して、II群では全期間0%と発生は認められず、50週目と60週目には有意差が認められた。一方、胃癌の20,30,40,50,60週目における発生率はI群の0%,0%,0%,25%,29%に比較して、II群では腺腫と同様、全期間発生は認められず、60週目には有意差が認められた。COX2の発現はGCP、腺腫、胃癌に認められたのみならず、間質細胞にも認められた。胃底腺領域におけるKi67 labeling indexは全ての時期において、I群の方がII群より有意に高率であった。COX2 mRNAの発現は両群に差は認められなかったが、PGE2産生量はI群の方がII群より高値であった。 以上より、選択的COX2阻害剤meloxicamはラットの十二指腸胃逆流モデルにおいて、GCP、腺腫及び胃癌の発生を抑制していることが示唆された。その機序として、meloxicamがCOX2を介するPGE2産生を低下させることにより、上皮細胞の増殖活性を抑制することが、一因として考えられた。今後はヒトにおける胃癌の化学予防への可能性を検討していきたい。
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