研究概要 |
【目的】ホスファターゼ蛋白質は、蛋白質のリン酸化、脱リン酸化により細胞内におけるシグナル伝達、細胞周期、代謝系など様々な細胞内情報の制御をおこなうことが知られている。そのなかの1つであるPPP1R3遺伝子は染色体7q31に位置され、Protein phosphatase 1 (regulatory 3)をコードしている。最近になり種々のホスファターゼ蛋白質の不活性化が細胞分裂および細胞増殖系に異常をきたすことが報告されている。今回大腸癌におけるPPP1R3遺伝子について検討をおこなった。 【方法】対象は当科において切除手術を施行した大腸癌症例50例について検討した。方法は大腸癌原発巣および正常組織からDNAを抽出後、SSCP施行、異常の認められた症例においてDNAシーケンスをおこないPPP1R3遺伝子変化について検討した。また遺伝子変化の認められたexonについてdeletion mutantを作製後、fos luciferase actuvityにて核内転写活性を検討した。 【結果】(1)PPP1R3のSSCP解析において、大腸癌症例50例中6例(12%)に異常が認められた。(2)SSCPにおいて異常の認められた6症例についてDNAシーケンスをおこなったところ、4症例はexon 4,2症例はexon 1にPoint mutationが確認された。(3)PPP1R3 full遺伝子におけるfos luciferase actuvityの活性化がおこることが確認され、Point mutationの認められたexon 1またはexon 4のdeletion mutantを作製してfos luciferase actuvityの活性化を検討するとexon 1 deletionでは活性化が低下、exon4では活性化は認められなかった。 【総括】PPP1R3遺伝子の変異が大腸癌症例に認められ、また核内転写活性に影響を及ぼすことより、特定の大腸癌ではあるがProtein phosphatase 1 (regulatory 3)蛋白質は細胞内プロセスに関与する遺伝子であることが示唆された。
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