研究概要 |
研究計画に基づき以下の検討を行い学会発表・論文発表を行った。 1.我々の確立したピロリ菌感染スナネズミ(Mongolian gerbil)モデルに十二指腸液胃逆流(DGR : Duodenogastric reflux)手術を施行した。死亡率の低い安定した長期観察可能な動物モデルであることが確認され,DGRは1)単独では炎症細胞浸潤は軽度で,粘膜表層のビラン病変を形成すること,2)初期のピロリ菌胃炎の活動度を低下せせること,3)ピロリ菌胃炎の上皮細胞回転亢進には相加的に作用すること,4)DGRによる胃粘膜病変の成立には胃内細菌叢の変化も関与することを明らかにした。 2.粘膜宿主反応の一つである腺粘液細胞ムチンの産生をつかさどる糖転換酵素α1,4-N-アセチルグルコサミン転換酵素(α4GnT)のスナネズミにおけるmRNA定量法を確立し,ピロリ菌感染時の経時的変動を観察した。1)感染早期の4-8週で胃粘膜内α4GnT mRNA発現は有意に増加した。2)同時に測定したIL-1β mRNAも同様の変化を示した。3)組織化学的にピロリ菌胃炎においては腺粘液型ムチンが粘膜表層に厚い粘膜ゲル層ないしムコイドキャップを形成した。4)胃粘膜内プロスタグランディンE2濃度は上昇した。以上のことよりピロリ菌感染早期の胃粘膜は粘液ムチン合成分泌が亢進し,胃粘膜防御能の高まった時相が存在することが明らかになった。 粘膜萎縮から発癌に至る胃粘膜病変の発症メカニムの解析にはピロリ菌感染初期の胃炎病態および他の環境因子との相互作用を含めて検討する事が必要である。
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