1.先天性胆道拡張症(以下本症)の胆管壁における神経線維ならびに神経節細胞の状態が正常であるか否かについてwhole-mount標本を用いて立体的に観察した。本症の8例を対象とし胆道系に異常の認められない3例を対照として検討した。手術的に採取された胆管ならびに胆嚢をザンボニ液で数日間固定した後、実体顕微鏡下で粘膜、粘膜下組織、線維筋層を順次剥離し、外膜の表面近くに存在する胆管壁神経叢を、神経の汎用マーカーである抗PGP9.5抗体に浸漬してStreptoavidin-biotin-peroxidase法による免疫組織染色を行った。 2.その結果、本症の胆管は胆道系に異常のない対照胆管に比較して神経細胞数が有意に少なく、神経のネットワークは粗であり、神経細胞の集団からなる神経節の存在がまばらでその大きさも非常に小さいことが明らかとなった。他方、胆嚢においては、神経叢の網状構造や神経節の発達程度には大きな差は見られなかった。 3.この所見はヒルシュスプルング病類縁疾患であるhypoganglionosisにおける腸管壁神経の所見に極めて類似している。本症においては、膵胆管合流異常が形成される過程で胆管壁神経のネットワーク形成に障害が起こり、そのため、胆管運動に障害が生じ、胆管下部狭小部の存在による通過障害と相まって胆汁の能動的排出に障害が生じる結果、特異な胆管拡張がもたらされた可能性があると考えられた。
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