本研究でghrelinがmolitinと同様、消化管の空腹期運動を誘発する事がわかった。Motilinとの違いは、ghrelinは脳室内投与でも静脈内投与でも上部消化管の空腹期運動を誘発するのに対して、motilinは静脈内投与でのみ空腹期運動を誘発する事である。Ghrelinのほうがmotilinより脳内メカニズムとより密接に関連する事が示唆される。ghrelinが胃十二指腸の空腹期運動を引き起こすメカニズムに関して興味深い結果を得た。Ghrelinの脳室内投与または静脈内投与で誘発される空腹期運動は、NPYの中和抗体を脳室内に前投与する事で完全にブロックされた。またghrelinの静脈内投与で起こる空腹期運動はghrelin受容体(GHS-R)アンタゴニストの脳室内投与ではブロックされず、静脈内投与でブロックされた。以上の実験結果より、ghrelinが上部消化管の空腹期運動を誘発する反応は視床下部のNPYニューロンを介している事がわかる。弓状核のNPYニューロンの細胞体にはGHS-Rの存在が報告されているが、我々の実験結果は、胃から分泌されるghrelinは消化管壁内の迷走神経知覚線維終末に作用し、神経性に脳内に情報が伝わり、孤束核、弓状核(NPYニューロン)、迷走神経背側運動核のルートで最終的に消化管の空腹期運動を誘発する事がわかった。 さらに胃内pHとghrelinの作用に関して興味深い結果を得た。食後0-30分間は胃内pHが2.5に下がり食後期運動がおこるが、Ghrelinによる空腹期運動の誘発は胃内pHが5以上にならないと起こらない事がわかった。この実験結果は、胃酸分泌の異常と上部消化管運動の異常が連動している事を示すもので、胃酸分泌が亢進または遅延している患者では空腹期運動が起こらないことが種々の症状の原因になっていると考えられる。
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