研究概要 |
本研究においては、免疫療法と化学療法を組み合わせることにより、臨床効果のある膵癌に対する治療法の開発を目指した。 免疫療法としてはMUC1ペプチドワクチンと癌抗原ペプチドワクチンを用いた癌ワクチン療法の第I相臨床試験を施行した。MUC1ムチンは膵癌細胞表面に発現し、HLA非拘束性にcytotoxic T細胞(CTL)を誘導する高抗原性の糖タンパクである。MUC1ペプチドワクチン療法ではペプチドの投与量を300、1,000、3,000mgとdose escalationする第I相臨床試験を施行した。対象は9例で、primary endpointである有害事象は1例も認めなかった。臨床効果としては、1例に腫瘍マーカーの低下を認めたが、残りの8例はprogressive disease (PD)であった。癌抗原ワクチン療法は30種類の癌抗原ペプチド中から患者に適合したものを選択するテーラーメイド型のワクチン療法である。対象はHLA-A24ないしはA2の患者で、10例に施行した。primary endpointである有害事象としては、局所アレルギー7例、発熱3例、食欲不振および疲労を各1例ずつ認めたがすべてGradeII以下であり、血液毒性は認めなかった。臨床効果としては、stable disease (SD)3例で、PD7例であった。SD症例のうち1例は2年6ヶ月投与継続し、生存中である。2つの癌ワクチン療法とも、重篤な有害事象を認めず、安全性に問題はなかった。しかしながら癌ワクチン療法単独では予後の延長は認められなかった。 また、化学療法を検討する上でin vitroの検討が重要と考え、新たにヒト膵癌細胞株(YPK-1)を樹立し、抗癌剤感受性試験を行った。YPK-1に対する抗腫瘍効果を実験的に確認したところ、Gemcitabine (GEM)の50% inhibitory concentration (IC50)は0.0063μg/mlとシスプラチンの1.26μg/mlや5-Fuの3.16μg/mlに比べ明らかに低く、GEMの抗腫瘍効果は期待できるものであった。 今後は癌抗原ペプチドワクチン療法とGEMによる化学療法の併用による臨床試験へと進展することが期待される。
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