研究概要 |
【目的】胃癌腹膜播種陽性例の1年生存率は20%以下である.また、腹膜再発は再発形式の中でも頻度が高く、その予後は極めて不良なことは既知の事実である.癌が浸潤・転移する際の主病巣周囲の細胞外マトリックスの破壊は重要なステップであり、我々もこの点に注目し、これまでヒト消化器癌組織中のマトリックス分解酵素(matrix metalloproteinase : MMP)が胃癌の生物学的悪性度と密接な関連があることを明らかにしてきた.MMPの活性阻害が、腫瘍の進展阻止につながることが推測され、本研究を計画した.【方法と結果】本研究に用いたノビレチンは、沖縄産柑橘系植物であるシークワーサーから抽出されるフラボノイドでMMP-9の発現を特異的に抑制することが知られている.まず、ノビレチンの転移抑制効果をTMK-1(1x10^6個)をSCIDマウス腹腔内に投与する腹膜播種モデルを作成して検討した.その結果、ノビレチン投与群ではコントロール群に比べ腹膜播種結節の形成が有意に抑制された.一方、フラボノイドには、上記作用以外にもいくつかの生理活性が報告されている.それらのうち癌細胞に対する増殖抑制効果、細胞周期に対する影響についても併せて検討した.ヒト胃癌細胞株TMK-1,MKN-45,MKN-74,KATO-IIIに対するノビレチンの増殖抑制効果をMTT assayを用いて検討したところ、いずれの細胞株に対してもノビレチンが増殖抑抑制効果を示した.細胞周期に対する影響についてはflow cytometry法を用いたDNA histogramにより検討したところ、TMK-1の培養液にノビレチン添加後24時間でG1blockを認めた.以上より、ノビレチンは細胞増殖抑制効果およびMMP-9の産生阻害を介してヒト胃癌株の腹膜播種形成を抑制することが示され、フラボノイドの胃癌治療への応用の可能性が示された.
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