目的:我が国の大腸癌増加傾向とその死亡率の高さから、大腸癌に対する化学療法以外の分子生物学的治療薬の開発は急務となっている。細胞増殖や血管新生に重要な役割を果たしている線推芽細胞増殖因子(FGF)に着日し、その中でもFGF7(Keratinocyte Growth Factor、KGF)とFGF10(KGF2)について、大腸癌組織、培養大腸癌細胞において蛋白、mRNAの発現、局在を検討してきた。KGF、KGF2はKGFファミリーと呼ばれ、同一のKGFレセプター(KGFR)に作用し、上皮細胞の増殖に開与している事が知られている。今回、我々は増殖因子KGFファミリーの阻害薬として、アンチセンス・オリゴヌクレオチドを作製し、KGF蛋白の産生抑制による大腸癌増殖制御の可能性を検討した。 結果:大腸癌組織においてKGFファミリーの蛋白およびmRNAは、癌周囲の線維芽細胞、癌細胞自身にその発現と局在を認め、KGFRは癌細胞にのみ発現と局在を認めた。これは、大腸癌において癌細胞、癌周囲の線維芽細胞などで産生されたKGF、KGF2が癌細胞に局在するKGFRを介してautocrine、paracrine的に大腸癌増殖に関与している事を示している。今回我々は、培養大腸癌細胞COLO 205へのRecombinant KGF、KGF2の投与によりKGFファミリーは培養大腸癌細胞の増殖を促進する事を確認した(KGF=1.3倍、KGF2=1.7倍)。更に、KGF2のアンチセンスオリゴを作製し、培養大腸癌細胞COLO 205に添加する事により、培養細胞の増殖が30%抑制された。アンチセンスにはFITC標識を行い、共焦点レーザー顕微鏡による観察で、培養細胞内への確実なデリバリーを確認している。KGFファミリー阻害薬も現在実用化されている血管新生阻害薬同様に、癌治療新戦略の分子標的の一つとして期待できる。
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