研究概要 |
[目的]肝移植の際、非常に問題となる肝虚血再灌流障害の病態において、臓器に浸潤する好中球が重要な役割を演じている。局所で産生された好中球遊走化因子(cytokine-induced neutrophil chemoattractant:CINC)により好中球は血管外組織へ浸潤し、活性酸素や各種のプロテアーゼを分泌し組織障害を引き起こすと言われている。このCINCはラット肝虚血再灌流障害時には肝細胞およびクッパー細胞より合成・分泌されることが報告されている。今回、ラット初代肝細胞培養を用いて、炎症性サイトカインによる肝細胞でのCINC産生に及ぼすFK506およびcyclosporin Aの効果を検討した。 [方法]Wistar系雄性ラットを用いSeglenの方法に従って肝細胞を単離・培養した。培養24時間後に炎症性サイトカイン(interleukin-1 beta, lipopolysaccaharide, tumor necrosis factor-alpha, interferon-ganmaなど)を添加し、添加後12時間での培養液中に分泌されてくるCINC濃度をELISAにて測定する。CINCを合成・分泌するサイトカインが同定されれば、同サイトカインと同時にFK506およびcyclosporin Aを添加し、培養液中CINC濃度、肝細胞内CINC mRNA、転写因子NF-kappa Bの発現を比較検討する。 [結果]肝細胞におけるCINC合成・分泌促進効果を示すサイトカインはinterleukin-1 betaであることがわかった。このinterleukin-1 betaは濃度、時間依存性に培養液中CINC濃度を増加させた。その他のサイトカインでは効果認めず。また同様に肝細胞内CINC mRNA、転写因子NF-kappa Bの発現もinterleukin-1 betaによる濃度、時間依存性であった。しかしFK506およびcyclosporin A添加において、これら各種濃度を変更してもinterleukin-1 betaによる培養液中CINC濃度増加には影響を与えなかった。 [結論]FK506およびcyclosporin Aはクッパー細胞においてCINCなどのケモカインの合成・分泌を抑制することがこれまでにin vivo、in vitroの系を問わず報告されているが、今回我々が行ったラット初代肝細胞培養の系では、これら免疫抑制剤が炎症性サイトカインによるCINC合成・分泌に及ぼす効果は認められなかった。
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