研究概要 |
ラット開腹モデルを用いて,侵襲刺激が,如何なる経路で中枢に認識されるかを,迷走神経切離モデルと非切離モデルを用いて比較検討を行い,迷走神経が中枢における侵襲反応の感知に如何に関与しているかを明らかにすることを目的として研究を行っている.平成14年までの結果として,開腹処置時の迷走神経切離が,開腹刺激によって惹起される脳内TNFaの発現を転写レベルとタンパクレベルで低下させることを明らかとした.平成15年度の研究としては,この迷走神経切離によってmodifyされた脳内サイトカインの発現が,生体における全身の侵襲反応に影響を及ぼすか否か検討するために,全身の侵襲反応の指標として血清コルチコステロンならびにACTHの濃度と尿中の残余窒素の排泄量を測定した.その結果,迷走神経切離を行った群では,開腹後に増加する血清コルチコステロン濃度が非切離群と比較して有意にその増加が抑制され,かつ,尿中の残余窒素排泄量も有意に減少していることが判明した.この結果は,迷走神経切離が脳内のサイトカイン発現に影響するのみならず,腹部侵襲が迷走神経を介して脳内へ伝わり,その伝導経路を遮断することによって全身の侵襲反応にも影響を及ぼしたという重要な知見であると考える.現在,末梢諸臓器におけるサイトカインの発現も測定中であり,さらに局所麻酔剤や神経伝達物質・電気刺激をもちいた迷走神経の関与の検討も行っているが,末梢のサイトカイン発現にはこれまでの結果では差異を認めないことから,迷走神経-脳内サイトカイン経路による腹部侵襲伝達経路が腹部侵襲時には重要な位置を占めると考えている.
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