研究概要 |
今年度はイヌを用いて灌流肺保存実験を施行した.これまで肺の保存方法については種々の手法が試みられてきたが,臨床応用されているのは肺血管床を肺保存液で洗い流した後,そのまま冷却存する浸漬冷却保存法である.我々の開発した細胞外液類似組成のEP4 solutionで96時間までの動物実験に成功している.臨床においても12時間までの肺保存に既に成功しているが,保存中に肺炎,肺水腫等を治療するためには薬剤などを肺の局所に投与するため灌流保存による長時間保存手法の確立が必要不可欠である.これまでの細胞内液類似組成液のEuro-Collins solutionによる灌流では,急速に肺水腫を来して長時間保存は不可能であった.今回,冷蔵庫内でEP4 solutionにドナー血液を加えた肺保存液を肺動脈から灌流するシステムで24時間肺保存の可否について検討した.肺の換気は行わず気管をクランプして肺を膨張させた状態に保った. 24時間保存後の肺には肺水腫の所見は見られず,同種左肺移植後3時間までの酸素化は良好であり,経時的に生検した肺組織のW/D ratioも5〜6代と通常の浸漬冷却保存法との間に差を認めなかった.今後,肺の換気条件などについて検討する必要があるが,機能の悪化した肺を灌流保存しながら治療して機能改善を図る手法はドナー利用を拡大する方法として将来有望であると判断された. 保存前に肺水腫,感染等により損傷を受けている肺を保存中に治療できる様にするためには,摘出前のドナー肺の良好な肺機能を保つための肺保護より強力な肺保護作用のある薬剤の開発が必要不可欠である.このため新たな肺保護物質としてHeat shock proteinを誘導する胃粘膜保護薬であるgerany lgerany lacetone(GGA)の肺保存における効果についてラットを用いて検討した.ラット12時間肺保存左片肺移植モデルにて検討したが,保存液にGGAを添加した群において有意に血液ガス,肺組織のW/D ratioが良好に保たれていた.GGAを加えた肺保存液は灌流保存にも有用と考えられた.
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