研究概要 |
神経栄養因子はニューロンの細胞機能の維持および種々の障害要因に対抗する生体防御物質で、脳神経系の障害や修復と関連して分泌されている。われわれは神経栄養因子のうち、ニューロンの保護作用が最も強い脳由来神経栄養因子(Brain derived neurotrophic factor, BDNF)に注目し、内因性BDNFを用いた脳神経保護法の開発および臨床応用をめざしている。 平成14年度には、誘導薬剤投与による脳内BDNFの誘導を主に観察した。BDNF誘導薬剤としてL型電位依存性カルシウムチャンネル活性剤BAY-K8644を使用した。BAY-K8644をラットに投与し、投与後第1日目、2日目と第7日目に犠牲死させ、脳組織内BDNF濃度の推移および脳内における組織BDNF濃度の局在をラットを用いて観察した。組織BDNF濃度の測定はわれわれが開発したenzyme immunoassay(EIA)法を用いた。 脳組織内BDNF濃度はBAY-K8644投与後に著明に上昇し、第2病日にピークを示した。BDNF濃度の脳内局在は海馬を中心に著明な局在が観察された。 上記実験に引き続き、脳内に誘導されたBDNFが、脳虚血急性期障害に対して脳保護効果を示すか否かをラットを用いた全脳虚血モデルにおいて解明を試みた。ラット全脳虚血モデルは椎骨動脈を電気焼灼した後に両頸動脈を20分間遮断することにより作成した。現在、コントロール群において全脳虚血により生じる脳障害の程度を神経学的評価、組織学的評価、脳精髄液中NSE, S100b値の推移、虚血再環流後の組織NO濃度の推移により測定中である。
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