1.心臓弁異種移植における凍結保存法による免疫学的修飾 現在臨床応用されているプログラムフリーザーを用いた凍結保存法は移植組織の免疫原性に、何らかの修飾を加えることが示唆されている。我々はブタ心臓大動脈弁を用いてブタ-イヌ間における異種大動脈弁移植を行い、凍結保存弁と採取したばかりの新鮮弁の移植において移植後の形態学的検討を行った。雑種成犬の腹部大動脈に新鮮ブタ大動脈弁、凍結保存ブタ大動脈弁、凍結保存イヌ大動脈弁を移植した。1ヶ月後に弁を採取し、形態学的検討を行った。凍結保存イヌ大動脈弁は移植前と同様に正常弁組織を有していたが、新鮮ブタ弁では弁葉細胞は消失しており、細胞浸潤などは見られなかった。また凍結保存ブタ弁においては多くの細胞浸潤が見られた。これはヒト凍結保存同種弁移植後の臨床研究における経時変化に類似しており、今回移植した弁は免疫原性の強いものが形態学的に早く変化したものと考えられた。この結果から凍結保存法はブタ大動脈弁に何らかの免疫学的修飾をもたらし、これにより新鮮ブタ弁と凍結保存ブタ弁の間に移植後の差が生じたと考えられた。 2.凍結保存血管組織移植におけるcell viabilityの検討 凍結保存同種大動脈移植モデルにおいて、組織再生に関与する遺伝子群の発現量をreal-time PCR法により測定し、グラフトのviabilityの指標となりうるか否かを検討した。結果、それら遺伝子群の発現量は移植後低下傾向を示すが、免疫抑制剤投与により回復可能であることが判明した。本法は移植後のグラフト生存性の定量化法として有用であることが示された。 3.移植後凍結保存血管組織におけるcell viabilityと石灰化抑制因子との関係 ラット凍結保存大動脈移植モデルにおいて、移植後の石灰化抑制因子のmRNA発現をreal-time PCR法により定量化した。その結果、移植後に骨基質蛋白であるMGPやosteopontinの遺伝子発現が起こり、これは拒絶反応により修飾を受けることが判明した。以上から、凍結保存組織のviabilityは免疫反応により修飾され、遠隔期の移植片石灰化に関与しうることが示された。
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