研究概要 |
【平成15年度の研究結果】対麻痺は、胸腹部大動脈瘤手術の深刻な合併症であり、いったん下肢機能が回復した後に対麻痺に陥る病態は、delayed onset paraplegiaとよばれ、約30%を占める。興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸やアスパラギン酸のexcitatory neurotoxicityと、downstream cascadeであるnitric oxide(NO)による神経細胞の障害が、対麻痺の発生に関与するといわれる。アスパラギン酸虚血下分節注入モデルを用いて、Caspase inhibitorであるDiazoxideの効果をin vivoで評価した。New Zealand white rabbitを用い、A群,B群,C群の3群に分けた。A群では、diazoxide(4mg/kg)を術前に静脈投与した。B群はdiazoxide(4mg/kg)とNMDA受容体阻害薬MK-801(6mg/kg)を同様に投与した。C群はグルタミン酸阻害薬riluzoleを術前10日間(100mg/kg/day)経口投与させたのち、diazoxide(4mg/kg)を術前に静脈投与した。D群は、controlとして、Diazoxideの溶解液のみ注入した。New Zealand white rabbitを開腹し、腹部大動脈を腎静脈の直下およびbifurcation直上で剥離した。カテーテルを右大腿動脈から腹部大動脈にむけ挿入、その先端をbifurcationから5mm上に固定した。30mMのアスパラギン酸溶液を2ml/minの注入速度でカテーテルから注入した。同時に腹部大動脈を左腎静脈直下で遮断、カテーテルをbifurcationで外側から締め、血流を遮断した。10分後、血流を再開、同時に注入も停止した。神経学的所見をTarlov modified scoreに従い、手術後、12,24,48時間後の各時点で、評価した。各実験群間の術後の神経学的所見の比較は、Mann-Whitney U testで統計処理した。手術後、HE染色したのち光学顕微鏡で病理組織学的検索を行なった。A群では、Tarlov scoreは、3.7±0.6、B群は、3.4±0.7、C群は4.1±0.8とA群とB群、C群の各群間に有意差は認められなかった。病理組織学的検索では、D群では、灰白質の神経細胞の脱落および白質の障害が著明であったが、A群、B群、C群とも灰白質のvacuolaizationのみで白質は保護されていた。アスパラギン酸虚血下分節注入による脊髄障害にたいしてDiazoxideの保護効果が認められた。胸腹部大動脈瘤手術に伴う遅発対麻痺の治療へのCaspase inhibitorの応用が期待される。
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