研究概要 |
凍結保存同種生体材料による代用血管及び代用弁は優れた抗感染性や抗血栓性を有しており,大動脈弁位や肺動脈弁位ではすでに臨床応用されその優れた成績が報告されているが,冠血行再建や内シャントなどを対象とした小口径の凍結保存同種血管移植における臨床成績は満足できるものではない.グラフトの寿命に関わる因子として血管内膜肥厚が問題となるが,その原因として内皮細胞の持つ組織抗原性に伴う拒絶反応と凍結,解凍に伴う組織障害が関与していると考えられている.本研究では凍結保存同種血管移植後新生内膜増殖に及ぼす拒絶反応の影響について検討を行った.【方法】ACI : RT1a(Ar)またはLEWIS : RT1l rat(Lr)の凍結保存胸部大動脈を一定期間液体窒素気相保存した後,Lrの腹部大動脈に移植した.CI群:同種同系移植群,CA群:同種異系移植群,FK群:移植後免疫抑制剤;FK506,1mg/kg/日投与を行なった同種異系移植群,E群:グラフト解凍後に3Fr.Fogartyカテーテルを用いて内皮細胞を剥脱し同種異系移植した群及びBA群:移植後細胞増殖抑制剤;BA_1,0.1mg/kg/日投与を行なった同種異系移植群(各群n=6)を作成し,14日目に犠牲死させ,内膜と中膜の面積比;内膜/中膜×100%により面積比を算出し内膜肥厚の程度を比較した,またグラフトの組織構築を免疫組織染色により病理組織学的に評価するとともに,グラフト外膜におけるCD8陽性リンパ球細胞数をカウントし,移植後の拒絶反応の程度を比較した.【結果】移植後14日の内膜と中膜の面積比はCI群19±5%,CA群52±10%,FK群26±9%,E群29±3%,BA群16±4%とCA群に比べCI群,FK群,E群及びBA群で内膜増殖は有意(P<0.05)に抑制されていた.内膜増殖細胞はvimemin(+),HHF-35(-),CGA-7(-)の筋線維芽細胞であり,内膜肥厚は創傷治癒機転と考えられた.同じく14日のグラフト外膜におけるCD8陽性リンパ球細胞数はCI群8.3±3.5,CA群204.5±63.0,FK群3.2±1.0,E群44.6±3.6,BA群142.7±42.2とCA群に比べてCI群,FK群,E群で有意(P<0.05)に拒絶反応の抑制を認めた.[考案]凍結保存同種血管移植後の新生内膜肥厚は凍結保存による機械的刺激と拒絶反応による創傷治癒の過程と考えられる.凍結保存血管移植後の免疫抑制もしくは細胞増殖抑制処置により内膜肥厚をコントロールすることは,durabilityの改善に有用であることが示唆された
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