研究概要 |
T細胞におけるIL-2Rからのシグナル伝達経路の一部であるJAK/STAT系はT細胞の分化・増殖に関与しており、同種移植片に対する急性拒絶反応に関しても大きな役割を果たしている可能性が示唆されている。Tyrphostin AG490は、JAK/STATシグナル経路のγC/Jak3シグナルを選択的に抑制し、さらにその下流のStat5a/bの活性をもブロックすることでIL-2を主体とするサイトカインの産生を抑制し移植抗原に対するT細胞の活性を抑制する事が知られている。我々は、ラット同種肺移植モデルを用いて移植片の急性拒絶反応に対するAG490の抑制効果を検討した。HLA full mismatchのドナー・レシピエントラット間で肺移植を行い、AG490(15mg/kg/day)を腹腔内投与すると、非投与群と比べ拒絶の進行は胸部レントゲン所見上の肺拒絶反応は有意に軽減された。さらにAG490投与のHigh dose(20mg/kg/day)群とLow dose(10mg/kg/day)群との比較により、AG490の抑制効果はdose dependentであることが分かった。また移植後8日目に犠牲死させ摘出した移植肺の肉眼的所見、および病理組織所見においても、AG490の抑制効果は明らかであった。 更にAG490の拒絶反応抑制がサイトカイン産生に依存するかどうかを検討する為、AG490投与群と非投与群のレシピエントsplenocyteとBALFを採取して、intracellular cytokine (IL-2,IFN-γ,IL-4,IL-10)profileとCD4^+CD25^+ regulatory T cellのpopulationの解析を行った。しかしAG490投与群、非投与群のいずれにおいてもintracellular cytokine (IL-2,IFN-γ,IL-4,IL-10)産生には有意差はなく、AG490単独投与のみではサイトカイン産生が影響されない可能性が示唆された。しかし一方、AG490投与群は非投与群に比べ、CD4^+CD25^+ regulatory T cell数が増加しており、AG490はregulatory T cellの産生を介して急性拒絶反応の抑制に関与している可能性が示唆された。
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