研究概要 |
微小転移の検出と臨床的意義 サイトケラチンによるリンパ節と骨髄中の微小転移に関しては、昨年の報告書に記載した。 分子生物学的因子の解析 1.肺腺癌の進展における糖転移酵素GalNAc-T3発現の意義 生体内において糖鎖は、細胞表面に局在し接着分子機能を有することから、その発現は、細胞構築の維持に重要であるとともに、細胞遊離の観点から癌転移との関連が指摘されている。肺腺癌切除例221例およびAAH病変に対し、糖転移酵素N-acetyl-galactosaminyl transferases (GalNAc-T3)発現を免疫組織化学的に解析したところ、GalNAc-T3発現は、正常腺上皮に発現しており、AAH細胞においても強発現を認めた.腺癌原発巣では、GalNAc-T3の強発現を56.1%に認めた。組織学的分化度において、強発現の頻度は、低分化ほど有意に低値となり、T因子、N因子、病期の進行とともに有意に低値となった。病理学的に野口のA型では全例が高発現であったが、B型以降は次第に低発現となった。また脈管浸潤と有意に相関していた。予後解析にて、GalNAc-T3強発現群に比較し、低発現群で有意な予後不良因子であった。したがって、糖転移酵素GalNAc-T3発現は、腺上皮から肺腺癌の進展と分化に関係する.また予後に関する新しいbiomarkerとして有用である。 2.DNAメチル化の検出と臨床的意義 遺伝子発現の調節機構として、DNAメチル化が重要で、それにより蛋白の不活化が生じると考えられる。非小細胞肺癌227例のメチル化の有無をCDH1,RASSF1A,FHIT,p16INK4aについてmethylation-specific PCR(MSP)により解析した。メチル化の頻度は、CDH1:57.7%、RASSF1A:、FHIT:52.0%、p16INK4a:21.6%であった。p16のメチル化は重喫煙と相関し、FHITのメチル化はリンパ節転移と相関していた。CDH1でメチル化があり、タンパク発現が低下しているものは有意に予後不良であった。
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