研究概要 |
【目的】本研究は、特異性の高い微小癌転移の検出系を確立すること、さらに肺癌の発生や浸潤・転移に関与する遺伝子異常を解析し、生物学的特性を考慮した個別化された癌治療の指針を得ることを目的とした。 【結果】(1)微小転移の検出:第I期非小細胞肺癌115例から郭清した所属リンパ節(LN)を、抗サイトケラチン(CK)抗体で免疫組織学的に染色した。CK陽性LNは1.7%、32例(27.8%)が陽性で、その予後は有意に不良であった。この研究に基づき、多施設共同研究による前向き試験を行なった。骨髄液351例中112例(31.9%)がCK陽性で、第II〜IIIA期では有意に予後不良であった。また、第I期症例216例のLNを染色し、陽性症例の予後は有意に不良であった。第I期では、LNの微小転移が、第II〜IIIA期では、骨髄の微小転移が有意な予後因子と考えられた。(2)分子生物学的因子と微小転移との関連:LN微小転移と、原発巣の血管新生因子(VEGE, VEGF-C)、細胞接着因子(E-cadherin, α,β,γ-catenin)の発現異常を免疫組織化学的に解析した。VEGF-C発現は、T2と扁平上皮癌で有意に高く、発現陽性例は有意に予後不良であった。β-catenin発現減弱は扁平上皮癌で、γ-catenin発現減弱は腺癌で有意に多かった。接着因子の発現低下とLN微小転移とに有意な相関を認め、接着因子が微小転移の指標になることが示唆された。糖転移酵素GalNAc-T3発現は、正常腺上皮とAAH細胞に強発現を認めた。強発現の頻度は、低分化、病期の進行とともに有意に低値となり、低発現は有意な予後不良因子であった。GalNAc-T3発現は、腺上皮から肺腺癌の進展と分化に関係し、新しい予後因子として有用である。メチル化の有無をCDH1, RASSF1A, FHIT, p16INK4aについて解析し、p16のメチル化は重喫煙と、FHITはリンパ節転移と相関していた。CDH1でメチル化があり、タンパク発現が低下しているものは有意に予後不良であった。 【考察・結論】サイトケラチンを用いたリンパ節や骨髄中の微小癌転移の検出を確立し、臨床的に再発や予後の推定に極めて有用であることを示し、術後の補助療法の一つの選択基準となりうることが示唆された。肺癌の個々の個性を遺伝子発現のプロファイルからより明確にすることで、個々の症例の特性を把握し症例特異的な治療法を構築することが期待される。
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