再生医学を用いた治癒的放射線治療と手術併用法の開発のための基礎研究

2003 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 14571293
• 研究機関: 国立がんセンター研究所
• 研究代表者: 杉山 賢司 国立がんセンター, 研究所・がん治療開発部, 主任研究官 (40132766)
• 研究分担者: 武藤 学 国立がんセンター, 研究所支所・がん治療開発部, 室長 (40360698)
• キーワード: 再生医療 / 創傷治癒 / 放射線治療 / ケラチノサイト / 移植 / 線維芽細胞 / 術前照射 / ラット皮膚

研究概要

放射線の術前療法における合併症を克服するため、放射線による創傷治癒の障害のメカニズムを解明する事およびその治癒を促進することが本研究の目的である。
(1)治癒障害の機構の解明:電子線(30Gy)照射ラット大腿部皮膚では、上皮基底細胞は増殖頻度が高いが正常機能を保持せず創傷後の上皮再生に進めなかった。照射後18時間後には毛包にアポトーシスが始まり、4日目以降、毛包数が減少した。したがって、電子線照射による創傷治癒の傷害は、上皮再生に必要な上皮基底細胞および毛包にある上皮幹細胞が不足することが原因であろうと推察された。そこで、毛包消失を誘導する遺伝子を解明するため、遺伝子発現をDNAチップで検討した結果、4種類の転写因子の発現が照射後早期に変動する事が判明した。これら転写因子を発現する細胞が放射線の最初のターゲットであろうと考えられるので、今後、in situハイブリダイゼーション法によりその細胞種を明らかにする。
(2)細胞移植による創傷治癒障害の克服。昨年、初代培養ケラチノサイトが放射線による創傷治癒の障害を克服する可能性を示した。しかし、移植したLacZ発現初代培養ケラチノサイトは再生上皮に認められなかった。また、GFPを発現する全骨髄細胞を移植した実験では、移植細胞の創傷部位への定着および治癒促進は認められなかった。また、単離した皮膚全細胞の移植でも治癒促進が認められず、今後は毛包の上皮幹細胞を含む培養ケラチノサイトおよび培養線維芽細胞の同時移植が必要であろうと考えられた。
(3)皮膚以外の創傷治癒傷害の実験系の確立。肺気管支の放射線による吻合不全をおこす実験系の確立は、ラットでは気管支の手術と術後管理の関係から困難であった。放射線治療による合併症では、血管の吻合不全が非常に問題となる。そこで、今年度、マイクロサージェリーによるラット大腿動脈の吻合術を用いて、放射線による血管吻合傷害を緩和する実験系を開発し始めた。

研究成果

• [文献書誌] Yokoyama T, Muto M, et al.: "Alcohol flushing, alcohol and aldehyde dehydrogenase genotypes, and risk for esophageal squamous cell carcinoma in Japanese men."Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 12(11). 1227-1233 (2003)
• [文献書誌] Ohtsu A, Muto M, et al.: "Controversies in the treatment of esophageal cancer from the viewpoint of medical oncology"Gan To Kagaku Ryoho. 30(9). 425-433 (2003)
• [文献書誌] Ishikura S, Muto M, et al.: "Long-term toxicity after definitive chemoradiotherapy for squamous cell carcinoma of the thoracic esophagus."J Clin Oncol.. 21(14). 2697-2702 (2003)
• [文献書誌] Hattori S, Muto M, et al.: "EMR as salvage treatment for patients with locoregional failure of definitive chemoradiotherapy for esophageal cancer.."Gastrointest Endosc.. 58(1). 65-70 (2003)
• [文献書誌] Kawai H, Muto M, et al.: "Efficacy and safety profile of S-1 in patients with metastatic gastric cancer in clinical practices : results from a post-marketing survey."Gastric Cancer.. 6. 19-23 (2003)
• [文献書誌] Katada C., Muto M, et al.: "Esophageal stenosis after endoscopic mucosal resection of superficial esophageal lesions."Gastrointest Endosc.. 57(2). 165-169 (2003)