術前がん放射線療法に於ける有効線量の照射は手術後の治癒不全から合併症を誘発する。この創傷治癒障害を緩和できれば、安全な手術から救命率が増すと期待できる。本研究の目的は、実験動物を用い放射線による創傷治癒障害の機構を解明し、それを緩和する方法を確立する事である。 本研究では、X線障害のモデルとしてラット皮膚の実験系を確立した。X線(30Gy)照射後7日目に照射部皮膚全層の部分切除(3mm径)または切開(2cm)と縫合を施行した。創傷治癒の障害は、脱毛、炎症の持続、表皮下水庖を伴う表皮の剥離や表皮肥厚、肉芽組織の欠如、膠原線維の異常、血管形成不全として現れた。 X線照射部位と非照射部位の皮膚を縫合すると、筋線維芽細胞は非照射部位から細胞分裂を伴い照射部位真皮へ移動し、肉芽を形成した。一方、GFP発現骨髄細胞に骨髄置換したマウスの皮膚を創傷すると、未照射皮膚では創傷部にGFP発現細胞が増加するが、照射皮膚ではむしろ減少した。従って、X線照射皮膚では、創傷後の骨髄由来及び真皮内筋線維芽細胞の増加や活性化が起こりにくいと考えられた。 照射ラット皮膚の創傷前後でTGFβ発現が亢進していたので、TGFβシグナルに拮抗するインターフェロンγを投与すると、筋線維芽細胞による表皮下水庖の修復が認められた。また、TGFβ受容体阻害剤は炎症の抑制及び表皮肥厚を改善し表皮再生を促進した。 一方、X線分割照射したラット大腿動静脈の縫合術一ヶ月後の結果では、縫合術により、照射した大腿動脈の内膜は非常に肥厚し、完全閉塞に近い形態を示した。さらに、外膜および間質結合組織には炎症と強い線維化が認められた。 これらの結果から、放射線による創傷治癒障害の緩和には、TGFβシグナルを抑制する物質の投与で組織内の再生障害を抑制させると伴に、筋線維芽細胞など不足する細胞種の動員や血管形成を促進させる処置が必要であろうと考えられた。
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