研究概要 |
悪性神経膠腫は、従来の放射線治療に対して感受性が低く予後不良であったために、高LET粒子線の効果に期待が集まっている。これまで、高LET粒子線の細胞に対する生物学的効果は、DNAに対する粒子の直接作用に因るところが大きく、DNA周辺に存在する水分子の解裂により生じるヒドロキシルラジカル(【overhead dot】OH)などを介した間接作用は極めて小さいと考えられてきた。そこで、本研究では、炭素イオン線が水溶液中に生成する【overhead dot】OHを定量化し、その生物学的効果に対する役割を推測した。 照射により水分子から生成される【overhead dot】OHを補足するために、5,5-dimethyl-1-pyrroline-N-oxide (DMPO)を細胞培養液、重水、エタノールに添加しておき、炭素イオン線(20〜90keV/μm)またはX線を照射した。照射終了から10分後に、生成された【overhead dot】OHをelectron spin resonance (ESR)で定量化した。その結果、X線・炭素イオン線照射後に水が解裂して生じた【overhead dot】OHはDMPOに捕捉され、そのESRシグナルが得られることが確認された。これらのシグナルの解析から、炭素イオン線照射後の【overhead dot】OH生成量は、吸収線量に比例することが示された。また、LET値が20、40、60、80、90keV/μmのときに産生される【overhead dot】OHは、X線照射時の、それぞれ64,58,52,49,50%となり、【overhead dot】OHの産生量はLET値に対して対数関数的に減少することが初めて明らかにされた。 炭素イオン線の入射領域では、X線の60%以上の【overhead dot】OHが生じていることがわかり、今後の粒子線を用いた治療にも重要な知見が得られた。
|