研究分担者 |
安部井 誠人 筑波大学, 臨床医学系, 講師 (20261802)
三井 洋司 産業技術総合研究所, 分子細胞工学研究部門, 総括研究員
曾根 博仁 筑波大学, 臨床医学系, 講師 (30312846)
坪井 康次 筑波大学, 臨床医学系, 講師 (90188615)
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研究概要 |
VEGFレセプターであるFlt-1の細胞外領域部分は可溶性の形で生体内に存在し(sFlt-1)、内因性VEGF抑制因子として機能すると考えられている。VEGF特異性から悪性グリオーマに対する抗血管新生療法の標的分子となりうる。今回はグリオーマ組織におけるsFlt-1の役割を検討した。対象は52例のグリオーマ(GBM 24,AA 13,LGA 10,pilocytic 5)のパラフィン切片、凍結組織を用いた。凍結腫瘍組織のホモジネートでVEGFおよびsFlt-1の蛋白濃度をELISAで測定した。パラフィン切片ではMIB-1陽性率、CD34染色で腫瘍血管密度を形態計測し、VEGFおよびFlt-1染色でその分布を評価した。 結果。sFlt-1蛋白濃度はGBM 848.5±900.2,AA 465.4±232.5,LGA 410.3±207.2,Pilocytic 317.7±137.1 pg/mg proteinでGBMのばらつきが強く病理組織間での有意な差はみられなかった。しかし、VEGF/sFlt-1の蛋白濃度の比が1以上のグリオーマは1未満のものに比べて有意に(p<0.0001)生存率が低かった。悪性グリオーマ37例だけに限っても同様で、比が1以上の悪性グリオーマの平均生存期間は11ヶ月であるのに対し、1未満のものは29ヶ月で生存率に有意な(p<0.0001)違いがみられた。sFlt-1蛋白濃度は血管密度(r=0.427,p=0.0014)、腫瘍MIB-1値(r=0.349,p=0.0108)、VEGF蛋白濃度(r=0.304,P=0.0278)と有意な相関がみられた。Flt-1蛋白はグリオーマ組織の血管壁・腫瘍細胞に陽性であった。 結論。sFlt-1はグリオーマ組織の血管密度に関係し、VEGF/sFlt-1濃度の比率が1未満でグリォーマの生存率は有意に高く、内因性血管新生抑制因子として機能している。また、sFlt-1は悪性グリオーマの分子標的となりうると考えられた。 以上の結果に基づき1.sFlt-1 plasmidのグリオーマ細胞(U87)への遺伝子導入実験、2.低酸素反応のトリガーとなるhypoxia inducible factor(HIF-1α、HIF-2α)の発現を同一組織で検討中で、低酸素反応性のsFLT-1の遺伝子導入実験への準備を行なっている。
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