研究概要 |
一般臨床の場では、脳虚血発作が軽微であるにも関わらず、その後神経細胞死が緩徐かつ持続的に進行し、高次神経機能障害をきたす症例があとを絶たない。しかし、このような病態を反映する動物モデルがほとんどないことから、脳虚血後に生じる神経細胞長期変性のメカニズム解析は遅々として進んでいない。我々は、スナネズミに軽微な3分間の一過性前脳虚血を負荷すると、1週間目には約2分の1の海馬CA1錐体神経細胞が変性脱落し、1ヶ月目にはさらに残った神経細胞の約2分の1が変性脱落することを見出した(J. Cereb. Blood Flow Metab. 21,1295-1302,2001)。すなわち、3分間の一過性前脳虚血負荷により海馬CA1領域の錐体神経細胞は徐々に死滅し、1ヶ月目には正常の4分の1程度まで減少することが判明した。従って、この軽微な3分間の脳虚血モデルは、虚血後7日目以内にほぼすべての海馬CA1錐体神経細胞が死滅する桐野らの5分間虚血モデルよりも、緩徐に進行する神経細胞死の病態をしらべる上で有用と考えられた(J. Cereb. Blood Flow Metab. 21,1295-1302,2001)。そこで本研究では、上記のモデル動物を用いて、脳虚血後に緩徐に進行する神経細胞変性の病態と治療について検討することを目的とした。今年度はまず、スナネズミに3分間の前脳虚血を負荷したのちにジンセノサイドRb_1(C_<54>H_<92>O_<23>,M. W.1109.46)を60μg/日又は6μg/日の用量で静脈内投与し、緩徐に進行する海馬CA1錐体神経細胞変性脱落が抑止されるかどうかを、受動的回避学習実験ならびに神経細胞数計測を指標にして検討した。その結果、ジンセノサイドRb_1の静脈内投与は用量に依存して有意に神経細胞の長期変性を抑止することが判明した。目下、ジンセノサイドRb_1の作用機構を解析中である。
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