研究概要 |
悪性グリオーマに浸潤しthymidine phosphorylase (TP)を発現するマクロファージに注目し,マクロファージの直接的抗腫瘍効果とTPを抗癌剤5-FUプロドラッグの活性型変換酵素として利用する化学療法との併用療法の可能性を探るため,悪性グリオーマ内の生体免疫機能と5-FU代謝を検討した.まず悪性グリオーマ特徴の1つである腫瘍内壊死組織が,悪性グリオーマに多数浸潤している免疫細胞であるマクロファージに及ぼす影響を調べた.末梢血からマクロファージを作成し,マクロファージが脳腫瘍細胞株U251GM cellに対して抗腫瘍効果を持つことをMTT assay,^<51>Cr releasing assayを用いて確認した.一方,手術摘出脳腫瘍材料を用い,glioblastomaの壊死組織を分析すると,多量の遊離ドコサヘキサエンサン(DHA)が含有されることを確認した.このDHAのマクロファージに対する影響を評価すると,DHAがマクロファージの抗腫瘍活性を抑制することが確認された.DHAによりマクロファージの貧食能が低下することもマイクロビーズアッセイで確認された.また,U251MG cellや今回手術標本から分離培養したヒト悪性グリオーマ細胞を用いて,DHAに対するグリオーマ細胞の感受性,マクロファージの感受性を,フローサイトメトリーを使用して評価した.その結果,腫瘍細胞は,DHAに対し概して抵抗性である一方,マクロファージは腫瘍細胞が抵抗性を示す濃度でも,アポトーシスに陥ることが確認され,悪性グリオーマの病理学的特徴である壊死組織に含まれるDHAが腫瘍免疫機能を抑制している可能性が示唆された.また,ヒト悪性グリオーマ細胞を用いて,抗癌剤5-FUの分解律速酵素であるdihydropyrimidine dehydrogenaseと5-FUにより阻害される標的酵素であるthymidylate synthetaseの活性をヒト悪性グリオーマ細胞で測定した.その結果,両酵素の活性が高く,治療抵抗性の原因となっている可能性が示唆された.
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