研究概要 |
近年のグリア細胞に関する研究により,グリア細胞の機能的変化が様々な脳疾患の病態に深く関与していることが示唆されている.アストロサイト特異的蛋白質(S-100)が,脳卒中患者の脳脊髄液・血液中で上昇しており,神経症状や梗塞巣の大きさとS-100含量の上昇に相関性が認められることが報告されている.本年度の研究として,我々は,アストロサイトに着目し,脳虚血におけるアストロサイト活性化と梗塞巣形成との関係を調べた.永久局所脳虚血の処置後,1,3,6,9,14,24,48,72,120,168,そして336時間後,梗塞体積は最初の24時間(69.7土35.7mm^3)で急激な増大を示し,その後168時間後(112.1±22.8mm^3)まで徐々にではあるが増大を続けた(虚血後168時間の梗塞体積は,24時間の梗塞体積と比較してP<.05で統計学的有意に増大した).興味深いことに,これらの遅発性の継続的な梗塞体積の増大現象に先行して,虚血辺縁領域での1)S-100そしてGFAP免疫染色陽性の活性化アストロサイトの増加,2)組織レベルでのS-100βの有意な増加,3)TUNEL陽性細胞の有意な増加が観察された.さらに,脳脊髄液中のS-100β濃度は,二相性の増加パターンを示した(虚血負荷後6時間21.0±8.6ng/mlそして14時間62.3±36.0ng/ml,その後徐々にベースラインに向かって減少した.).この脳脊髄液中のS-100βの増加は,虚血コアー内アストロサイトからの急激な分泌そしてそれに引き続く虚血辺縁領域の活性化アストロサイトからの分泌を反映しているものと考察された.以上,本年度の研究実績として,虚血辺縁領域に位置する活性化アストロサイトによるS-100βの合成増加が,遅発性の継続的な梗塞体積の増大に重要な役割を果たしているデータを得た.
|