脳虚血による神経細胞の細胞死・傷害機構を解明するため、脳虚血ストレスで増えるユビキチン(Ub)化タンパク質を解析した。材料に一過性中大脳動脈閉塞マウスの大脳皮質を用い、水溶性画分と8M尿素可溶化(尿素溶性)画分を分析に供し、以下の知見を得た。 1.再灌流0〜10時間後、虚血側で尿素溶性ポリUb化タンパク質が増加した。 2.尿素溶性ポリUb化タンパク質の精製法を確立した。すなわち、尿素溶性画分を4M尿素に透析後、タンパク質100へ250mgを抗Ub-FK2抗体カラムに展開し吸着成分を3.5M MgCl_2で溶出した。その結果、精製画分(0.1〜0.4mgタンパク質)に結合型Ubが100%回収され、高い精製効率を示した。 3.Ub化基質タンパクを同定する方法を開発した。すなわち精製物をendoproteinase Asp-Nで消化し、UbのC末端断片D58-G76(UCP)を認識する抗体で免疫沈降後、逆相HPLCで展開した。分離された複数ペプチドの1次構造を解析した結果、K48型Ub鎖やUb化タンパク質に由来するUCP-ペプチド断片が同定された。その中から、虚血脳に特有の成分としてcyclin-dependent kinase 5(CDK5)が見出された。 4.CDK5抗体によるWestern blotや免疫組織化学を用い、虚血ストレスがUb化CDK5を出現させることやCDK5自身の細胞内局在を変えることを見出した。 5.虚血脳に特徴的な水溶性タンパク質として、Ub化反応中間体であるUb活性化酵素UBE2D2-Ubチオエステルを精製・同定した。 以上、脳虚血はCDK5のK48鎖型Ub化を誘導し、同反応へのUBE2D2の関与が示唆された。これらタンパク質の機能修飾が神経細胞の細胞死・細胞傷害・ストレス応答に与える影響を解析中である。
|