研究概要 |
我々はこれまでミクログリアを血中投与すると、血液脳関門を通過して脳実質内に浸入することを報告してきた。またミクログリアには脳内病巣への遊走能、虚血神経細胞の保護作用があることを確認して報告した。ミクログリアは中枢神経系における免疫担当細胞であるので、発生した腫瘍細胞の阻害作用があることが推測される。本研究においては、培養ミクログリアを用いたグリオーマ治療が可能であるかどうかを検討した。 初代培養ミクログリア、ミクログリア株(Ra2,4a)をmouse glioblastoma株(GL261)と混合培養し、GL261及びミクログリア株各々の増殖能を調べたところ、4aとの混合培養によってGL261の増殖が優位に抑制されるが、初代培養ミクロダリアまたはRa2とGL261との混合培養においてはGL261の増殖の抑制が認められないことを確認した。ミクログリアとGL261の混合培養が、ミクログリアの増殖に影響を与えないことも確認した。GL261をマウスの脳内に移植し、グリオーマ動物モデルを作成した。蛍光染色を施した培養ミクログリアを、この動物モデルの鎖骨下動脈より注入すると、ミクログリアの集積がグリオーマ内及び近傍には認められるが時間の経過と共に蛍光染色されたミクログリアのグリオーマへの集積が減少することが確認された。ミクログリア注入グリオーマモデルの腹腔内にBRDUを注入後断頭し、腫瘍へ集積した蛍光発色ミクログリアの減少が、急速な細胞分裂によるのか又は、集積したミクログリアの性質の変化によるものか検討中である。また初代培養ミクログリアまたはRa2の血中投与により、グリオーマモデルの優位な生存期間延長が認められなかったが、4aの投与により生存期間の短縮が認められた。 4aは遺伝子導入により活性酸素分泌能が増強されたミクログリア株である。活性酸素には抗腫瘍効果があるので4aにはより強い抗グリオーマ作用があることが予想された。in vitroにおいては予想通り4aの強い抗腫瘍作用が認められたが、in vivoにおいては生存期間の短縮がみられたことより、4a投与による正常組織の悪影響が示唆された。しかしながら4aを正常マウスに投与しても生存期間の短縮を認められないことより、今後更なる検討を要する。初代培養ミクログリア、Ra2投与によりグリオーマモデルの優位な延長を認めたことより、個の細胞を用いたグリオーマ標的細胞治療の開発可能であろうと考える。
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