研究概要 |
正常圧水頭症(normal pressure hydrocephalus, NPH)と診断され、シャント手術が施行された10例について手術前後の歩行状態を歩行解析装置を用いて解析した。歩行解析はQuickMAG3次元動作解析システムによる下肢3関節の経時的角度関係パターンの解析と、BERTEC force plateシステムによる床反力のベクトル解析である。この結果、シャント手術が有効であったNPHの歩行は歩幅が短く、足底が十分に上がらず、歩行の規則性が失われるという特徴が、下肢3関節の経時的角度関係パターンでは軌道が小さく、不規則で、足関節の動きの減少として捉えられ、床反力の力学的解析では着地と踏み込み時に現れるべき2峰性のベクトル波形のうち踏み込みのピークが消失した1峰性の波形によって示された。一方、シャント手術が無効であった症例では、臨床的にはNPHに特徴的な歩容を示したにもかかわらず、下肢3関節の経時的角度関係パターンあるいは床反力のベクトル波形のいずれかに有効例との相違が見出された。以上の結果から、歩行解析装置を用いることによりNPHの歩行の特性が明らかになり、シャント手術の有効性を術前に推測することが可能になると思われる。しかし、結論を導くにはさらに多くの症例での検討が必要であり、本研究年度に症例数の集積を予定している。 また、研究者らが使用している歩行解析装置は大掛かりで、移動ができないため、臨床現場での使用が不便である。今回、科研費で購入したF-SCAN圧計測センサーによる足圧測定パターンの解析がBERTEC force plateシステムによる床反力のベクトル解析と同様にNPHの歩行解析に有効であれば、本機器は移動可能であり、臨床使用の便宜性が向上する。現在、F-SCAN圧計測センサーによる足圧測定パターンの解析を正常人に使用して、他の歩行解析装置との相関を検討中であり、本研究年度内にNPH患者に使用してデータを集積する予定である。
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