研究概要 |
カルパインは一般に細胞内で機能するプロテアーゼであると考えられているが、近年m-カルパインが関節液中や関節軟骨組織で細胞外に存在し、アグリカンの分解に関与していることが証明された。本研究では、ヒト軟骨器官培養あるいは培養軟骨細胞においてculture medium中に経時的にm-カルパインが認められるようになった。このm-カルパインの細胞外への出現に対する非ステロイド抗炎症剤(以下NSAIDs)の影響を検討した。ヒト軟骨器官培養系では、loxoprofen-SRS(loxoprofenの活性体)の添加により、未添加の場合と比べてmedium中のm-カルパイン量が減少した。軟骨細胞様細胞HCS 2/8培養系を用いた検討では、NSAIDs単独の添加では細胞内外のm-カルパインの発現に変化を認めなかった。炎症性サイトカインとして用いたTNFαを添加すると細胞内のm-カルパインは減少し、逆にmedium中のm-カルパインは増加した。TNFαによって引き起こされた現象すなわちmedium中でのm-カルパインの増加および細胞内での減少は、aspirin, diclofenac, loxoprofen-SRSおよびNS398によって阻害される傾向を認めた(10μM〜100μM)。以上の結果から、炎症性サイトカインであるTNFαの刺激によって軟骨細胞から細胞外へのm-カルパイン分泌が促進され、またその分泌がNSAIDsによって阻害される可能性が示された。この結果はNSAIDsが、マトリックス分解酵素であるm-カルパインの細胞外での発現を抑制することにより、軟骨を保護する働きをもつことを示唆している。
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