研究概要 |
健常者における運動処方作成の手法として運動負荷時の酸素摂取量と心拍数との関係式(VO_2-HR開式)を用いることが多い.しかし脊髄損傷者では,自律神経障害による運動時心拍応答が異なるため,この関係式が不明であることから脊髄損傷者のVO_2-HR関係式の特性を検討した.対象は,運動習慣のある頚髄損傷者(CCI)6名,胸腰髄損傷者(SCI)6名および健常者6名とした.方法は,上肢エルゴメーターによる運動負荷試験を実施し,呼気ガス分析装置により酸素摂取量,心拍計により心拍数を測定し,VO_2-HR関係式を算出した.結果として,各群ともにVO_2-HR関係式は各群において,有意な正の相関を示すとともに共分散分析の結果より各群間で有意差を認めた. このことから,運動処方作成基準となるVO_2-HR関係式が脊髄損傷者と健常者では異なり,さらに脊髄損傷者でも損傷部位による運動時心拍応答の抑制が運動処方作成上重要な要因となることが明らかとなった. さらに,運動処方作成およびスポーツといった活動指標の有効性を検証するために,携帯型加速度測定器を使用し,車椅子駆動時のVO_2-HR,およびVO_2-加速度の関係式を検証した.対象は,健常男性7名とした.その結果,VO_2-HR関係式のみならず,VO_2-加速度関係式も高い相関関係が得られ,車椅子駆動時の酸素摂取量を推定する指標として加速度測定も有用であることが示唆された.また,VO_2-加速度関係式が心拍数との関係式よりも高い相関結果が得られたことから,車椅子駆動時の運動強度推定法として加速度計測法が有用である可能性が示唆された. 以上の結果より,脊髄損傷者に対し運動処方を作成する場合は,自律神経障害による運動時心拍応答抑制を考慮するとともに,加速度法による運動強度推定が有用な指標となる可能性が示唆された.
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