研究概要 |
脊髄損傷によって発生した麻痺の改善や、著明な骨量減少を抑制する治療法の開発には、まず損傷脊髄の病態や運動機能改善に関わる要因の基礎的データが必要なため、以下の実験を行った。 これまで成熟哺乳類の中枢神経では一度細胞死を来したものは、再生しないことが定説であった。しかし人の脳でも新生ニューロンが存在することや、脳、脊髄組織より神経幹細胞を分離・培養し、至適条件下で継代培養することでニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイトに分化することが明らかにされた。しかし脊髄組織内のいかなる部位・細胞が、神経幹(前駆)細胞の性質を有しているのかについては不明な点が多い。そこで神経幹細胞のマーカーで、中間径フィラメント蛋白であるネスチン発現ついて調査した。30g、10分間の圧迫損傷を加えたモデルを使用し、損傷後24時間、1週間、4週間、およびコントロール群とした。主として損傷周辺部の変化を解析する目的で、頭尾側5、10mmを観察部位として、凍結切片を作製し、免疫組織学的に検討した。使用した1次抗体は抗ネスチン抗体(RAT-401)、モノクローナル抗体をアイオワ大学より購入した。その結果は、(1)損傷周辺部脊髄組織において、ネスチンは中心管の上衣細胞と脊髄全周を覆う軟膜周囲から突起状状・樹枝状に発現し,中心管のネスチンは損傷後約1週間で最大となる。(2)軟膜周囲から発現するネスチンは損傷後1周以降で劇的に増大し,4週間後まで増大傾向が続き、コントロール群の約100倍にまで上昇する。(3)白質部において非常に広範囲に拡大するネスチンが2重染色にてGFAP陽性であった。以上の内容から脊髄白質のネスチンが損傷後の神経再生、修復に関わっており,GFAP陽性で、形態学的にも胎生期で認められる放射状グリア細胞である可能性を予想し、神経幹(前駆)細胞の性質を持つ細胞は、軟膜下アストロサイトであると結論した。
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