従来、人工膝関節置換術の術後屈曲可動域は、平均115度から120度程度であったが、平均で約15度の改善を獲得し、かつ安定した膝関節の再建を行う手技を確立した。 屈曲可動域の改善には、Posterior Clearanceの作成:1)手術中後十字靱帯の充分な切除と、大腿骨顆間部の後方関節包の剥離を行うこと、2)大腿骨後方(特に内側)の骨棘と余剰骨を切除すること、が重要である。 しかし、これを従来のAnterior Referenceによる手術法に適応すると伸展GAPに比べて、屈曲GAPの開大が著しく(平均で5〜6mmの増加)なり、屈曲位で不安定となるため、大腿骨コンポーネントのAP方向のサイジングと回旋およびAP方向の設置位置の決定を伸展GAP作成の後に行うように骨切り順序を変更した。この際、屈曲GAPと伸展GAPの大きさを厳密に調整するため、トルクレンチとスプレッダーを組み合わせて40Lb.mのトルクを掛けた時のGAPが等しくなるように大腿骨の後面を骨切りする。研究期間中、スプレッダーは、2個試作した。 【臨床応用と限界】 2003年1月より12月までの1年間で、この手術法を用いて27関節の人工膝関節置換術を行った。縫合不全などの軽微なものを除いて合併症はなく、また、歩行能力の改善はすべての症例で得られていた。 しかし、この手術法が適応できなかった症例として、関節リウマチによる外反膝変形がある。これは軟部組織の弛緩のため、屈曲GAPが大き過ぎ骨切りでの対応が不可能なためである。
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