研究概要 |
非侵襲的低出力超音波パルス(Low intensity pulsed ultrasound : US)による骨形成作用は骨折治癒のどの相に特に有効かなど詳細には不明点が多い(Azumaら,2000)が、我々は骨芽細胞が標的細胞であり、一過性のCOX-2発現により産生されるPGE_2が臨床的(生体レベル)に重要なアナボリックな積算的効果をもたらすことを報告した(Naruseら,2003)。これまで我々が提唱してきた周期的伸展刺激に対する骨細胞のアナボリックな応答や,未分化な繊維芽細胞・骨芽細胞前駆細胞の伸展刺激(一日一回程度の頻度)に対する応答に対して,逆にパルスの周期1,000Hz,周波数1,5MHzという超高周波数の超音波に対する骨芽細胞の応答,即ち標的細胞の異なった反応が複合的に作用するために仮骨延長時には低出力超音波パルス照射により特徴的な相乗効果が得られると考えた。この仮説をネズミによる動物実験として細胞化学的に証明を試みるため、まず1)マウス骨折治癒評価系の確立と、2)超音波骨折治療におけるPGE_2の役割の解明を行った。 B6129S10週齢と52週齢マウスを麻酔下,大腿骨遠位部よりキルシュナーワイヤーに替えて25Gニードルを髄腔内に刺し入れ,Bonnarensら(1984)の方法で、大腿骨骨幹部に閉鎖骨折を起こし、骨折治癒の経過を観察した。低出力超音波パルス照射は,麻酔下に,骨折3日目より右側骨折部に,臨床及び細胞実験と同じく周波数1.5MHz,繰り返し周波数1kHz,バースト幅200μsec,出力30mW/cm2の超音波を1日20分間3週間照射した。52週齢マウスにおいては、骨折のみのコントロール群に比して、超音波照射群で顕著な治癒促進がみられた。同様の骨折実験でCOX-2ノックアウトマウスを比較したところ、既述の細胞実験より推測されるとおり、ノックアウトマウスでは大幅な治癒の遅延が見られ、超音波照射による治癒促進は殆どなかった。一過性のCOX-2発現が臨床的(生体レベル)に重要なアナボリックな積算的効果をもたらすことが直接的に証明された。
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