正常細胞には影響を与えず、肉腫細胞のみを選択的に破壊する増殖型、弱毒化単純ヘルペスウイルスI型d12.CALPΔRRを作製した。平成15年度はヒトへの応用を目指して、安全性試験と効力試験を行った。 d12.CALPΔRRベクターをヌードマウス(♀)眼窩下静脈より2×10^7 p.f.u./マウスで投与し、経時的に血液、脳、心臓、大動脈、肺、肝臓、腎臓、脾臓、卵巣、膀胱を採取した。マウス血清中の複製可能なd12.CALPΔRRは24時間でほぼ消失した。また、肝、脾、肺組織から複製活性のあるd12.CALPΔRRは検出されなかった。投与後4日目およびそれ以降では、これらの組織でLacZ、ICP4ともに発現は認められず、病理学的にも明らかな組織障害は認められなかった。また投与後の血液生化学検査(肝・腎機能、糖・脂質代謝機能)では、d12.CALPΔRR投与による異常は認められなかった。 次ぎに、ヒト子宮平滑筋肉腫から肉腫細胞を培養してスキッドマウスに移植し、腫瘍内へのウイルスの直接注入と静脈内への注入によって肉腫が治療できるかどうかを検討した。平滑筋肉腫の増大はd12.CALPΔRR治療によって有意に抑制された。また、腫瘍割面のX-Gal染色により、直接注入、静脈内注入ともに広範なウィルス増殖を認めた。 さらに、遠隔臓器の微小な転移病巣を血管内へのウイルスの注入によって破壊することができるかどうかをヒト子宮平滑筋肉腫の胸膜転移モデルを作製して検討した。d12.CALPΔRRは、胸膜上に播種性に広がる微小な転移巣を標的化して破壊した。このとき、この細胞破壊がアポトーシスを伴っていることも確認できた。
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