研究概要 |
われわれは,平成14年度は小脳誘発電位に関する基礎的研究を進めてきた. 1)刺激強度と小脳誘発電位の関係:刺激強度を変化させたときに観察される小脳誘発電位の波形変化は刺激強度依存性に変化し,脊髄を上向する信号量を反映していることを見出した.これは体性感覚誘発電位では見られない特徴である.今後,刺激の種類(痛み刺激,触覚,振動覚など)とこの波形変化の関係を検討していく予定である.痛み刺激によりこの波形変化が生じていれば,痛みの定量化への一つの方向性が示される. 2)麻酔薬が小脳誘発電位に与える影響:さまざまな麻酔薬が小脳誘発電位に与える影響を体性感覚誘発電位と比較検討した.その結果,小脳誘発電位は,後期成分(刺激から50ms以上経過して現れる波形)が少なく,体性感覚誘発電位よりも麻酔薬の影響を受けにくいことが示された.このことは,麻酔中のモニターとして有利であることを示している. 3)脊髄虚血が小脳誘発電位に与える影響:脊髄虚血が小脳誘発電位に与える影響を調べた.その結果,小脳誘発電位は体性感覚誘発電位と比べて,虚血により速やかに消失することが判明した.このことは麻酔中の脊髄虚血のモニターとして感度が高いことを示している.今後は虚血による脊髄障害と小脳誘発電位の波形変化の関係を調べて,特異度に関する検討を行う予定である.さらに,運動野刺激誘発電位と比較し,手術中の脊髄虚血のモニターとしての有用性を比較し臨牀応用していく. 4)小脳誘発電位と平衡機能の関係:現在,成人ボランティアを用いて,ヒトにおける小脳誘発電位の測定方法を検討している.その結果,ヒトでも経皮的に小脳誘発電位が測定できることが判明した.今後は安定性,再現性のある測定方法を確立していく.
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