研究概要 |
われわれは、平成15年度は平成14年度に引き続き小脳誘発電位に関する基礎的研究,特に脊髄虚血のモニターとしての小脳誘発電位の有用性に関する研究を進めてきた. 1)麻酔方法の検討:麻酔薬は誘発電位に様々な影響を与える.将来の研究において運動誘発電位との比較も予定されているため,知覚系,運動系ともに影響のすくない麻酔方法の確立が必要である.われわれは,ケタミン+キシラジン麻酔法に注目し,その麻酔効果と各誘発電位に与える影響に関して調べた.その結果ケタミン20mg/kg/hour,キシラジン2mg/kg/hourの持続静注を60分以上継続すると十分な麻酔効果が発現することが熱刺激法に確認された.同時に測定された各種誘発電位でもこの麻酔法は誘発電位を潜時には影響はなく,振幅は濃度依存性にやや増大させることが判明した.これらの性質はわれわれの実験に適しており,以後の研究ではケタミン+キシラジンの持続静注を麻酔方法として選択することとした. 2)脊髄虚血方法の確立:脊髄を灌流する動脈としては一本の前脊髄動脈と二本の後脊髄動脈がある.われわれは胸部大動脈をバルーン付きカテーテルで閉塞して脊髄虚血モデルを作成することを試みた.バルーンによる閉塞では小脳誘発電位は消失するものの,体制感覚誘発電位は振幅が小さくなるものの消失しなかった.この原因を調べるため脊髄虚血中に心室内に墨汁を注入し,脊髄の摘出標本にて灌流域を調べた.その結果,後脊髄動脈領域には血流が残存していることが判明した.そこで,この血流の主要な供給路と考える両側の鎖骨下動脈も同時に閉塞させることで脊髄の完全虚血モデルができるかどうかを検討した.その結果,バルーンによる胸部下行大動脈の閉塞と,両鎖骨下動脈の拘縮により脊髄の完全虚血モデルが作成可能であることが判明した. 3)虚血が小脳誘発電位,体性感覚誘発電位に与える影響:上記の結果をふまえて脊髄完全虚血モデルで,虚血が小脳誘発電位と体制感覚誘発電位に与える影響を検討した.結果,小脳誘発電位は虚血により体制感覚誘発電位よりも速やかに消失することが判明した.このことから小脳誘発電位は脊髄虚血のモニターとして有用であると考えられた.
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