本研究の主要課題は、静脈内投与された薬剤が投与部位から心臓、肺を経て再び心臓、大動脈、さらに脳へ到達する過程の希釈モデルを明らかにすることである。ならびにこのモデルを従来からの3コンパートメント代謝・排泄モデルとリンクすることである。 本年度の研究では、希釈モデルが当初の目論見通り、直列に接続されたミキシングチャンバー(MCIS)モデル)により記述されるかを検証した。MCISモデルに従うなら、投与直後の時間濃度推移は、χ2分布に従い、自由度が6以上にて対数正規分布に従うはずである。そこでパイロットスタディーとして、人(n=12)にプロポフォール2mg/kgをボーラス投与し、その血漿内の濃度・時間推移を測定した。中心静脈投与直後より600秒までを5秒間隔で採血し、それぞれ遠心分離後、液体クロマトグラフィーにて分析した。初回、2回目までの再循環を仮定して、それぞれの循環は対数正規分布に従うとして、測定された濃度推移を最小自乗法にて当てはめた。その結果、極めて高い確度で対数正規分布に従うことを確認した。このことよりMCISモデルは妥当であると結論した。なお、この過程で、Euler法による差分解析は10%程度の誤差を含むことが判明し、差分解析法をExact solutionにて計算する必要性を見いだした。また、血漿濃度のビーク値(median)は18.8μg/mlであったが、これは、従来のコンパートメントモデルにおける推定値に比べ250%程度高い値である。このことは、希釈モデルの導入の正しさを証明するものと考える。
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