研究概要 |
静脈投与薬の摂取・排泄モデルとして、コンパートメントモデルが使用される。モデル化の過程で、投与薬剤が瞬時に中央コンパートメントに拡散し、さらに末梢コンパートメントへの移行も同時に開始されると仮定されるが、色素、リチウム希釈法による心拍出量の計測に関する研究の成果によれば、投与薬剤は瞬時に拡散せず、心臓や肺の通過で逐次希釈されることが判明した。よって本コンパートメントモデルは投与直後過渡期の逐次拡散希釈過程(秒オーダー)を無視したものと言える。一方、定常期濃度予測は臨床的に十分な精度(+-20%)を示し、このモデルを基礎としたTCI(target controlled infusion)は臨床的に幅広く認知され使用される。我々は本コンパートメントモデルに希釈拡散過程を新たに追加(希釈リンクモデル)し、静脈投与直後の過渡期(秒オーダー)から定常期(分オーダー)に至るまで、正確に予測、再現可能なモデルを構築した。 本モデルの妥当性の検討のため、家豚9頭にプロポフォールを急速投与しその血液を採取した。プロポフォールの投与はシリンジポンプにより2mg/kg/minの注入速度で、5分間(総投与量10mg/kg)行なった後投与を中止し、濃度の時間推移を140分に渡り測定した。サンプルは血液血漿分離後、高性能液体クロマトグラフィーにて測定した。測定した血漿濃度の平均値を使用して、1)旧来の3コンパートメントモデル2)本モデルによる予測を試みた。 希釈モデルを組み入れた3コンパートメントモデルでは、140分の全区間で推定値と実測値の差の平方総和は、希釈モデルと旧来の3コンパートメントモデルでそれぞれ155.0,207.7(mcg/ml)^2であった。一方、5分間のプロポフォール大量注入の過渡期における濃度推移は、新モデルならびに旧来モデルによる予測推移はそれぞれ、97.7,197.8(mcg/ml)^2であった。このことより、希釈モデルを組み入れた3コンパートメントモデルは濃度推移全区間における濃度推移において優れた予測精度を持つとともに、過渡的な時間推移ではより顕著な高い予測精度を持つと結論される。
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