麻酔科学関連領域の内、救急、蘇生領域の医療訴訟35症例を検討した。平成元年から平成12年までに法律雑誌に掲載された症例とした。これらの症例で患者側の訴えを司法がどのように判断したのかを検討した。内因性疾患症例23例と外因性疾患症例12例に区別した。内因性疾患としては喘息の急性増悪症例が多く、半数例は24時間以内に死亡していた。これらの症例での判例では内因性疾患に対する処置の不備に関する訴えが多く、半数が認容されていた。外因性疾患症例では、交通事故を原因とする症例が多く、診断、診察の不備に関する訴えが最も多く、やはり、半数は認容されていた。症例によっては、医療側に過失はあるが死亡などの結果との因果関係が認められない場合でも、過失がなかったならば、その当時の医療水準にかなった医療を受けることで延命の可能性があるとして、損害賠償が認められ医療側敗訴となっていた。救急、蘇生領域では、病院の体制を含めた医療体制が医療訴訟の要因になると考えられた。これは、心肺蘇生手技やACLS講習の義務の必要性を意味し、救急体制としての救急診療科の設置を含めた医療体制の構築、その後方の受け入れ体制が問題になっていると思われた。こうした医療訴訟での対応を含めた記述に関して麻酔関連図書にどう反映しているか一部検討したところ、記載に関しては日本の麻酔関連図書よりも欧米の麻酔関連図書が優れていた。これは医療訴訟が多く、その対応が一般の麻酔科医にとっても必要だからと考えられた。その意味で今後、我が国においてもそうした記載の充実が望まれる。
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