生体部分肝移植術施行中の患者より、経時的にクエン酸採血し一時間後、血小板凝集能をSSRエンジニアリング社製全血血小板凝集能測定装置・WBAアナライザーを用いて測定し、手術各時点での血小板凝集能とした。アデノシン二リン酸、コラーゲン及びトロンボキサンA_2類似体を濃度展開し凝集惹起物質として使用した。肝摘出期、無肝期、グラフト肝再潅流後の血小板凝集能を執刀前の対照群と比較検討した。個々の患者では手術経過中に血小板凝集能が低下する症例は多々見られたが、患者群として纏めると、特定の刺激物質による血小板凝集が特定の手術時期に有意差を持った変化は、WBAアナライザーを用いて血小板凝集能を測定する限り確認できなかった。しかし、さらに精度の高い凝集計を用いることで変化が見られる可能性は残る。実際、基礎的な検討からWBAアナライザーには、測定チャンネルが進むに従い、実際の血小板凝集以上の過大なデータが散見され、測定機器の構造的問題が考えられた。この問題はSSRエンジニアリング社にも報告し現在改良を進めている。また、凝集能としては変化していなくても、細胞の活性化や放出反応などで、凝固系因子や血管平滑筋に影響を与え、出血傾向に変化を及ぼす可能性や、術中使用される麻酔薬等の影響で結果が修飾される可能性もある。そこで、まず血小板への影響がまだ十分確認されていない麻酔薬等の血小板凝集への影響と作用機序を検討した。これにより、ケタミンは血小板凝集を抑制すること、バルビツレートはその種類により抑制傾向・増強傾向を持つもの、特に影響を及ぼさないものに分類できることがわかった。したがって、今後手術各時点での血小板凝集能を評価する場合、麻酔薬の種類や血中濃度にも配慮が必要と考えられた。今後、上記のような出血傾向への修飾機序も含めて検討を進め、さらに安全な生体部分肝移植術管理法を検討していく予定である。
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