研究概要 |
岡山大学グループは平成10年に日本で初めての生体部分肺移植を施行し成功して以来、平成16年2月までに25例の生体肺移植を施行し、全例生存している。この成績は世界最高であり例を見ないものである。われわれ麻酔蘇生科・集中治療部は麻酔および術前・術後集中治療管理を担当しているが、多くの症例において術中の移植直後から術後数日間にかけて虚血再灌流傷害が原因と考えられる重篤な呼吸不全を経験し、治療に難渋している。肺移植が心臓移植に比較して術後急性期の死亡率が高いのは,移植された肺は容易に傷害を受けやすく移植後に急性呼吸不全をきたしやすいからであり、肺移植においては術中から術後の管理が非常に重要である。虚血再灌流傷害は,肺移植後の死亡原因の大きな一つであり、虚血再灌流傷害を予防する方法は肺移植の先進国である欧米においてさえ確立されていない。我々の研究目的は,虚血再灌流傷害に対する一酸化窒素(以下NO)吸入療法の予防効果をプロスペクティブに検討し,移植肺における酸素化能と移植後に発生しやすい肺高血圧症に対する効果を判定することである。同時に,移植肺の病態と治療に対する効果を検討するために,移植前,移植肺への再灌流直前・直後,移植後の血中インターロイキン6,8,10とtumor necrosis factor-alpha(TNF-α)を測定し,再灌流傷害の原因を探索することを目的とする。平成14年度は6例の生体肺移植(原発性肺高血圧症4例、肺リンパ脈管筋腫症1例、閉塞性細気管支炎1例、間質性肺炎1例),平成15年度は5例(原発性肺高血圧症2例、間質性肺炎2例、アイゼンメンジャー症候群、気管支拡張症1例)を行い、NOの臨床的効果とサイトカインの再灌流傷害への関与を検討中である。この研究に関し、平成15年10月には、米国麻酔学会(サンフランシスコ)に参加し討議を行った。今後、平成16年2月から3月にかけて数件移植が予定されており、臨床での治療の質をさらに向上させると同時に研究成果を集計する予定である。
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