脳虚血後の神経細胞死はネクローシスとアポトーシスによりもたらされる。ネクローシスは、ミトコンドリア機能の低下に伴うエネルギー障害が本態である。一方アポトーシスはミトコンドリア膜電位の低下に伴うチトクロームcの遊出により引き起こされる。このように、ミトコンドリアの機能異常は虚血性神経細胞障害の拡大に大きく関与しているが、ミトコンドリアの保護を目的とした治療法は試みられていない。前年度の研究によりマグネシウムによるミトコンドリア保護効果が認められた。しかし、その研究はNADH蛍光にからミトコンドリアの酸化還元状態を推測したものであり、ミトコンドリア電位を直接観察することはできていない。ミトコンドリア機能を測定するためにはミトコンドリア膜電位の観察が必要不可欠であり、本年度はそのシステムを開発した。すなわち、人工呼吸下にラットの左頭頂側頭骨に10mm×12mmのcranial windowを開け、ミトコンドリア電位により蛍光強度が変化する色素JC-1を大脳皮質に注入し、キセノンランプで380nmの青色光を脳表に照射しJC-1の蛍光、540nm(緑色)と590nm(赤色)、を電子冷却高感度CCDカメラで観察した。虚血開始後直ちにミトコンドリア電位はコントロール値の91%に低下した。その118秒後に細胞膜電位と共に脱分極を示しコントロール値の66%に達した。オリゴマイシンによりATP合成酵素を阻害した群では虚血中のミトコンドリア電位はコントロール値の46%であった。このことは、虚血中のミトコンドリアが細胞質のATPを消費しながらミトコンドリア電位を維持し、カルシウムを蓄積していることを示唆している。マグネシウムはこのカルシウムの流入を阻害し、ミトコンドリアに保護的に作用した可能性がある。
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