研究概要 |
脳を含む脊髄神経系の虚血は臨床的には重要な病態であるが,重症患者でもとりわけ人工呼吸中では鎮静や脳機能障害のために神経機能を評価する良いモニターがない.本研究では虚血を修飾する因子が,心臓自律神経活動に及ぼす影響を調べるため,外傷性に中枢神経障害を作成し陽圧人工呼吸の影響を,独自開発した心拍変動解析法と心拍-血圧変動解析法で検討した.なお対象周波数は0.04から0.40(Hz)までを低周波,0.75から1.40(Hz)までを高周波成分としてそれぞれのパワーとその比を算出して比較検討した. 実験1では,全身麻酔下に陽圧人工呼吸中の白色日本家兎に外傷性脳虚血を作成し,持続陽圧(PEEP)を変化させて人工呼吸が心臓自律神経活動に及ばす影響を検討した.脳組織潅流量の評価は微小色素法(カラードマイクロスフェア)の血管内投与で定量評価した.なおPEEPは負荷する群としない群の2群とした.その結果,陽圧人工呼吸の影響は5cmのPEEPを負荷した群の方が,脳死状態のモデル動物の心臓自律神経活動は,主に副交感神経機能が強く抑制されることが明らかになった. 実験2では,全身麻酔下に陽圧人工呼吸中の白色日本家兎に,脊髄横断を施した後に脳外傷を作成する群と逆の順に作成する群の2群に分けて,脊髄横断が心臓自律神経活動に及ばす影響を検討した.その結果,脊髄は心臓自律神経活動に重要な働きを有することが明らかとなった.なおこの条件下に環境温度を変化させても明らかな差違は認めず,実験条件に一段の工夫が必要であると考えられた. 従来のわれわれの研究成果から脳死状態のモデル動物では副交感神経機能が抑制されることが明らかになっており,今回の研究結果からは脳死状態の個体ではPEEPの負荷はさらに一層の機能低下を生じる可能性があること,これには脊髄機能の温存の有無が重要であることが示唆された.
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