研究概要 |
平成15年度においては,非侵襲性を実現するため,大動脈圧波形の代わりに末梢橈骨動脈圧波形を用いて心血管整合バランス値(Ees/Ea)を測定するための研究を中心に施行した.このため,橈骨動脈圧波形から大動脈圧波形を推定することが必要であった.そこで,動脈圧系を4要素(C:動脈コンプライアンス,R:末梢血管抵抗,Zc:大動脈特性インピーダンス,L:慣性)を用いてモデル化し,大動脈圧波と橈骨動脈圧波の関係をこのモデルに当てはめて解析を行った.その結果,大動脈圧-橈骨動脈圧間の伝達関数は,4要素モデルを用いた2次応答を示す伝達関数によく一致させることができ,動脈の圧波伝播特性が2次応答に近似できることがわかった.このように,動脈血管システムは2次応答を示す4要素モデルで表すことができるので,モデルを用いた理論的検討から,圧波伝播特性を4要素に還元して考察することが可能となった.即ち,動脈血管床に入力する大動脈圧波形がどのように変形伝播して橈骨動脈圧波形が得られるかが,動脈血管床の状態に対応して理解できた.モデルによるシミュレーションから,R減少,C増大,Zc増大により,末梢の橈骨動脈圧波形の鈍りが生じることが明らかであった.更に,様々な循環動態下において,大動脈圧と橈骨動脈圧を同時測定し,両者の関係を実際に4要素モデルで解析した.その結果,シミュレーション同様に体外循環後にはZc/RとCが上昇することがわかった.逆にこれらの結果から,循環動態が測定できれば,その循環動態に応じたモデル伝達関数を用いて橈骨動脈圧波形から大動脈波形が推定できた. 本研究は,さまざまな循環動態下において,オンラインで心血管整合バランス値を求める上で重要な大動脈圧波形を末梢橈骨動脈圧形から非侵襲的に推定するための,重要な戦略となった.
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