研究概要 |
局所麻酔薬は、ナトリウムチャンネルの非活性化ゲートに作用することにより、ナトリウムチャンネル遮断作用を来たすことが知られている。研究代表者の研究目的は、受容体型チロシンキナーゼ内の酵素活性部位における自己リン酸化部位周辺のアミノ酸配列の性質が、ナトリウムチャンネル非活性化ゲート周辺のアミノ酸配列の性質と非常に類似していることに基づき、局所麻酔薬のチロシンキナーゼに対する作用及びそのメカニズムを解明するものである。 平成14年度の研究において、局所麻酔薬のリドカインは、ヒト角膜上皮細胞における上皮増殖因子受容体(Epidermal Growth Factor Receptor, EGFR)のチロシンキナーゼを活性化させる作用はなく、逆に抑制効果が認められることを明らかにした。そこで平成15年度では、ナトリウムチャンネルの非活性化ゲートのアミノ酸配列(GQDIFMTEEQK)と、インスリン受容体およびインスリン様増殖因子受容体(Insulin-like growth factor receptor, IGFR)の活性化ループ(TRDIYETDYYR)の性質が類似しており、芳香環をもつアミンである局所麻酔薬が「静電気力、π-πスタッキング、cation-π結合、C-H-π結合を介して、芳香環アミノ酸(チロシン(Y)、フェニルアラニン(F))、酸性アミノ酸(グルタミン酸(E)、アスパラギン酸(D))、塩基性アミノ酸(リジン(K)、アルギニン(R))と相互作用を持つ」という仮説のもとに、リドカインのインスリン受容体とIGFRにおけるリン酸化されたチロシンに対する、脱リン酸化作用を検討した。 リドカインは、インスリン受容体におけるインスリン刺激により自己リン酸化を抑制するのみでなく、自己リン酸化を受けたチロシン残基に対して脱リン酸化作用も有することを明らかにした。 また乳癌細胞のMCF-7は、細胞増殖過程でIGFRが重要な役割をもつことが知られており、400μM以上のリドカインがMCF-7における細胞増殖作用を有することを明らかにした。IGFRの活性化ループは、インスリン受容体の活性化ループと同じアミノ酸配列を有することから、リドカインによるIGFRの脱リン酸化作用がMCF-7における細胞増殖を抑制した可能性が示唆された。
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