研究概要 |
局所麻酔薬は、ナトリウムチャンネルの非活性化ゲートに作用することにより、ナトリウムチャンネル遮断作用を来たすことが知られている。研究代表者の研究目的は、受容体型チロシンキナーゼ内の酵素活性部位における自己リン酸化部位周辺のアミノ酸配列の性質が、ナトリウムチャンネル非活性化ゲート周辺のアミノ酸配列の性質と非常に類似していることに基づき、局所麻酔薬のチロシンキナーゼに対する作用及びそのメカニズムを解明するものである。芳香環をもつアミンである局所麻酔薬が「静電気力、π-πスタッキング、cation-π結合、C-H-π結合を介して、芳香環アミノ酸、酸性アミノ酸、塩基性アミノ酸と相互作用を持つ」という仮脱のもとに、上皮増殖因子受容体(Epldermal Growth Factor Receptor, EGFR)、インスリン様増殖因子受容体(lnsulin-like growth factor receptor, IGFR)およびインスリン受容体における自己リン酸化に対するリドカインの作用を検討した。 精製したEGFRを用いたin vitroにおける予備実験では、低濃度リドカインはEGFRのチロシンキナーゼ活性を増加し、高濃度では抑制した。しかしin vivoでは400μMのリドカインは、EGF刺激によるヒト角膜上皮細胞増殖を抑制し、EGF刺激によるEGFRの自己リン酸化も抑制した。局所麻酔薬は、ヒト角膜上皮細胞膜上のEGFRのチロシンキナーゼ活性を抑制することにより細胞増殖を抑制することが示唆された。 リドカインは、インスリン受容体におけるインスリン刺激により自己リン酸化を抑制するのみでなく、自己リン酸化を受けたチロシン残基に対して脱リン酸化作用も有することを明らかにした。また乳癌細胞のMCF-7は、細胞増殖過程でIGFRが重要な役割をもつことが知られており、400μM以上のリドカインがMCF-7における細胞増殖作用を有することを明らかにした。IGFRの活性化ループは、インスリン受容体の活性化ループと同じアミノ酸配列を有することから、リドカインによるIGFRの脱リン酸化作用がMCF-7における細胞増殖を抑制した可能性が示唆された。
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